大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成6年(ネ)2027号 判決

東京都足立区綾瀬二丁目二七番七号

控訴人

精工研株式会社

右代表者代表取締役

工藤勝弥

右訴訟代理人弁護士

宮瀬洋一

久江孝二

東京都台東区台東二丁目六番六号

被控訴人

ギアテック株式会社

右代表者代表取締役

伊藤俊一

埼玉県草加市栄町二丁目八番三〇-一一〇三号

被控訴人

伊藤俊一

右二名訟代理人弁護士

服部弘

近藤丸人

右輔佐人弁理士

川崎仁

宮城県古川市稲葉字新堀五三番地の一

被控訴人

ユーバー精密株式会社

右代表者代表取締役

三輪勲

右訴訟代理人弁護士

青木正芳

佐藤由起子

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  (主位的請求)

被控訴人らは、原判決添付別紙物件目録(ただし、同目録A〈3〉図面を本判決添付別紙A〈3〉図面に訂正したもの。以下同じ。)記載の玩具用ゼンマイ動力装置の製造、販売をしてはならない。

(予備的請求)

被控訴人らは、右目録図面A、Bの各〈1〉ないし〈7〉記載の各プラスチック製部品の製造、販売をしてはならない。

3  被控訴人ギアテック株式会社及び被控訴人ユーバー精密株式会社は、各自、控訴人に対し、金三五三六万円及びこれに対する平成三年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人らの負担とする。

5  仮執行の宣言

二  被控訴人ら

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  原判決の引用

原判決事実摘示「第二 請求原因」及び「第三 請求原因に対する認否及び被告らの主張」各記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決五頁三行目の「発明の名称」を「考案の名称」と訂正する。

二  当審における当事者の主張の要点

1  控訴人

(一) 本考案の構成要件Hについて

(1) 本考案の技術的範囲には、巻上用ピニオンの一端の支持につき、段部10と平歯車20の両者で支持する場合のみならず、段部10のみで支持する場合も、平歯車20のみで支持する場合も含まれると解されるべきであり、原判決が、段部10のみで支持する場合、平歯車20のみで支持する場合は含まれないと判示したのは、誤りである。

本考案以前のゼンマイ動力装置においては、巻上用ピニオンの一端と駆動用ピニオンの一端を軸受けするために、中間の仕切枠が存在していた。

本考案の技術的思想の核心は、巻上用ピニオンの一端の支持のために別の歯車の段部を用いるという手段を採用したことにより、この中間の仕切枠を省略して、組立の手数を省き、コストを低減することにある。本考案の実用新案登録請求の範囲には、構成要件Hにつき、「この段部10と前記駆動用ピニオン9と一体に設けた平歯車20とで前記巻上用ピニオン5の一端を支持し」と記載されているが、本考案の右技術的思想からすれば、段部10のみで支持する場合、平歯車20のみで支持する場合、両者で支持する場合のいずれの場合も同じであり、そのいずれであるかによって差異を設けるべき理由はない。

そして、段部10のみで支持する場合及び平歯車20のみで支持する場合よりも、この両者で支持する場合(〈1〉同時に両者で支持することがある場合、〈2〉段部10のみで支持することと、平歯車20のみで支持することの両方が必ずある場合の二つを含む。)の方が技術的には広範囲で確実である。

そうとすれば、実用新案登録請求の範囲の前記「この段部10と前記駆動用ピニオン9と一体に設けた平歯車20とで前記巻上用ピニオン5の一端を支持し」との記載は、本考案の技術的範囲に含まれる最も広い範囲を表現したものというべきであるから、段部10と平歯車20との両者で支持する場合のみでなく、段部10のみで支持する場合、平歯車20のみで支持する場合のいずれの場合をも包含すると解すべきである。

(2) 本考案の技術的思想の核心が右に述べたとおりであることは、被控訴人ユーバー精密株式会社が請求した本考案に係る平成三年審判第一一四八一号実用新案登録無効審判請求事件の審決が、「そして、被請求人が述べているように、当該分野において歯車に段部を設けることは通常に行われているとしても、その場合歯車の軸方向の移動を防ぐカラー又は歯車の補強のためのボスを目的とするのが一般であり、本件考案のように一端を長穴軸受に移動自在に“片方止め構造”で支持されている歯車の他の一端を支持するために別の歯車の段部を用いることが本件考案の出願前に常識であったとは認められないので、甲第1号証の原動歯車8と蓄力歯車9の間に設けた段部100が第1オートクラッチ歯車14の一端を支持しているとは言えず、請求人の主張は採用できない。」(甲第六号証一〇頁一一行ないし一一頁二行)と述べて、「“片方止め構造”で支持されている歯車の他の一端を支持するために別の歯車の段部を用いること」が本考案の技術的思想の核心であることを認めているところからも、明らかである。

右審決は、右に続き、「また、段部ばかりでなく平歯車でも支持するようにすれば巻上用ピニオンの支持がより確実になることは明らかであって、たとえそのために多少摩擦力が増えたとしても支持を確実にするという点で意義が認められるから、この点でも請求人の主張は採用できない。」(同一一頁三行ないし八行)と述べており、これは、右審決が、段部で支持する技術のほかに平歯車で支持するという技術が本考案に加わることにより、本考案の登録の無効をいう請求人の主張はなおさら認められないことを説示しているものであって、本考案の広さを認めるものにほかならない。

原判決は、右審決の右部分に関連して、「審決の右部分は、本考案が、巻上用ピニオンの一端の支持に段部10ばかりではなく平歯車20でも支持するようにすれば、巻上用ピニオンの支持がより確実になるとするものであるから、本考案においては段部10と平歯車20との双方で巻上用ピニオンの一端を支持することを説示しているものと認められ、右審決は原告主張のように段部10のみで支持したり、平歯車20のみで支持するものを含む趣旨を示しているものとはとうてい解することができない。」(原判決二七頁三行ないし九行)としているが、これは、例えば、「駐停車禁止」とあるから、「駐車だけ」や「停車だけ」は禁止されていないというのと同じであり、細かい言葉の文句にこだわり、本考案の技術的思想を誤解したために犯した誤りといわなければならない。

(二) 被控訴人製品について

原判決は、被控訴人製品においては、巻上用ピニオン5が段部10のみで支持され平歯車20によっては支持されていないものと認定したが、事実誤認である。

(1) 被控訴人製品の設計図(乙第三号証の一ないし三)を検討すると、同設計図どおりに製作すると製品は機能を果たさない。

すなわち、同設計図に基づく両フレーム間の内寸は九・三ミリメートルであるが、ギア1のスラスト寸法は九・三五ミリメートルと記載されており、これでは、両フレーム間で自由に回転するはずのギア1の寸法が、フレームの内寸より〇・〇五ミリメートル長く、ギア1は回転しないし、そもそもフレームが組み立てられない。

ところが、実際の被控訴人製品(検甲第三ないし第六号証)では、ギア1のスラスト寸法は九・二ミリメートルであり、フレームの内寸九・三ミリメートルとの差〇・一ミリメートルは、通常のスラストのガタとして問題のない寸法で構成されている。これに基づいて組立図を作図してみると、巻上用ピニオン5は五・三六度傾いたとき確実に平歯車20に接触している(甲第一五号証)。

また、被控訴人製品の平歯車20には〇・一ミリメートルのリング状の段があるが、このリング状の段は、接触時に少しでも抵抗を少なくするためにあるのであり、平歯車20が巻上用ピニオン5に接触しなければ、本来不要のものである。〇・一ミリメートルの段差では、強度、変形防止、肉抜き等の効果はなく、摩擦抵抗を減らす目的がなければ、金型加工時に工数が増えるだけの無駄をしていることになるのである(甲第一五号証)。

(2) 原判決は、被控訴人製品において、平歯車20が軸方向にはねるように動く場合を認定しながら、巻上用ピニオン5が平歯車20に衝突した衝撃や反動を受けている状況は認められないとし、また、平歯車20を除いても、巻上用ピニオン5が脱落するなどの特段の支障は生じていないと認定している(原判決三一頁一〇行ないし三二頁八行)が、平歯車20がはねるように動くのは、巻上用ピニオン5と衝突して衝撃や反動を受けているからであり、大歯車8を除いた被控訴人製品(検甲第四号証)においても、巻上用ピニオン5が脱落するなど特段の支障が生じないのであるから、これらは、巻上用ピニオン5が平歯車20に支持されている端的な証拠である。

2  被控訴人ら

(一) 控訴人の主張(一)について

すべて争う。

(二) 同(二)(1)について

作図及び製造の技術者の間で、「呼び寸法と基準寸法は一致しない」ことは、常識である。「呼び寸法」とは、「対象物の大きさ、機能を代表する寸法」であり、「基準寸法」とは、「寸法の許容限界、すなわち形体の実寸法が、その間におさまるように定められた、寸法の限界、を表す大小二つの寸法(最大許容寸法及び最小許容寸法)を指す」((財)日本規格協会出版「JISハンドブック・製図」三六頁)。特に、組立品においては、「呼び寸法」に「寸法公差(公差)」が加わることにより設計の意図が表されるのである。

この技術者の常識に基づいて、被控訴人製品の設計図(乙第三号証の一ないし七)をみると、控訴人の指摘するフレームの内寸は、最大九・四五ミリメートル、最小九・三ミリメートルであり、ギア1は最小が九・三ミリメートルであり、この差〇・一五ミリメートルのガタが図面上許容されているのである。控訴人の主張は、この呼び寸法と公差の基本的な常識を無視した主張にすぎない。

また、控訴人は、被控訴人製品の巻上用ピニオン5が五・三六度傾くと主張するが、最大四度前後しか傾かない。

被控訴人製品の平歯車20に〇・一ミリメートルのリング状の段があるのは、試作品において、平歯車20をボックス1及びボックス2からなるケースから突出させるための切り欠け部をボックス1の周囲壁に設けていたが、平歯車20の側面がボックス1の周囲壁に接触するので、ここに段差を設けて接触面積を減少し、その回転時の摩擦力を低減するようにしたことによるものであり、なお摩擦力が大きいので、その後の製品においては、ボックス2の周囲壁にも切り欠け部を設けて、接触を回避するようにしたが、平歯車20は、コスト増加を最小限とするため、そのままの状態で用いているにすぎない。

(三) 同(二)(2)について

すべて争う。

第三  証拠

原審記録中の書証目録及び証人等目録並びに当審記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因一、二、三1及び四の事実は、当事者間に争いがない。

二  本考案の構成要件Hについて

1  本考案の構成要件Hに係る実用新案登録請求の範囲の記載が、「この段部10と前記駆動用ピニオン9と一体に設けた平歯車20とで前記巻上用ピニオン5の一端を支持し」であることについては、当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第二号証によれば、本件公報の「考案の詳細な説明」は、「産業上の利用分野」、「従来の技術」、「考案が解決しようとする問題点」、「問題点を解決するための手段」、「実施例」、「作用」、「考案の効果」の各項から成り立っており、これに図面として第1図ないし第4図が示されているが、構成要件Hに関係する部分を摘記すると、以下のとおりと認められる。

(一)  「産業上の利用分野」

「本考案は、走行玩具等に用いるゼンマイ動力装置に係り、更に詳記すれば中間の仕切枠を省略し、簡易な構造にしてコストダウンを計つたゼンマイ動力装置に関するものである。」(本件公報二欄七行ないし一〇行)

(二)  「従来の技術」

「従来のこれらゼンマイ動力装置は、第4図に示すように、車輪1に設けたピニオン2と、このピニオン2と歯合する平歯車3と、同平歯車3と常時歯合し長穴軸受4により移動自在に軸受される巻上用ピニオン5と、同ピニオン5と歯合する歯車6をもつゼンマイ巻上軸7と、同ゼンマイ巻上軸7に設けられた大歯車8と、同大歯車8と常時歯合し、長穴軸受22により移動自在に軸受された駆動用ピニオン9と、同駆動用ピニオン9と一体に設けた平歯車20と、これら歯車を軸受する左右の側枠体11、12と、その中間に挟持される仕切枠13とを備えてなるものが使用されていた。」(同二欄一六行ないし二八行)

(三)  「考案が解決しようとする問題点」

「上記したように従来のゼンマイ動力装置は、仕切枠13を具備しているが、これは巻上用ピニオン5の一端と、駆動用ピニオン9の一端を軸受する為である。この仕切枠を省略出来れば、組み立てにも手数を要せず、またコストの低減をも計ることが出来るので望ましいこと明らかである。しかして、この仕切枠を省く為には、前記巻上用ピニオン5と、駆動用ピニオン9とを、左右の側枠体11、12で軸受しなければならないが、これは、必然的に歯車同士がぶつかることになるので、不可能であった。」(同三欄一行ないし一一行)

(四)  「問題点を解決するための手段」

「この考案は、このような問題点を解消しようとするものであり、駆動用ピニオン9を、左右の側枠体11、12で軸受すると共に、ゼンマイ巻上軸の歯車6と大歯車8との間に歯車6より径の大きな段部10を形成し、この段部10と平歯車20とで巻上用ピニオン5の一端を支持し、中間の仕切枠を省略したことを特徴とする。」(同三欄一三行ないし一九行)

(五)  「実施例」

「この段部10と前記駆動用ピニオン9と一体に設けた平歯車20とで前記巻上用ピニオン5の一端を支持している。巻上用ピニオンの他端及び他の歯車の両端は、左右の側枠体11、12で軸受している。

ゼンマス巻上軸の段部10と平歯車20とに接する巻上用ピニオン5の当接面中央には、円形の凹部23が形成され、またこの凹部と当接する前記段部10及び前記平歯車20の支持面にもそれぞれリング状凸部14、15が形成されている。これは歯車同士の接触面積を少なくし、歯車の回転に際しての摩擦を少なくする為であるが、これは必ずしもこのようでなくてもよく、歯車が支承なく回転し得るなら他の手段によつてもよい。また前記凹部23及び凸部14、15の形状も、上記目的が達成されるなら特に限定されない。」(同三欄三七行ないし四欄八行)

(六)  「作用」

「車軸1を走行と反対方向に駆動させることにより、平歯車3、巻上用ピニオン5を介して、ゼンマイ巻上軸の歯車6を回転させ、ゼンマイを巻上る。この状態で、巻上用ピニオン5(原文の「4」は、「5」の誤記と認められる。)は、一端は段部10の凸部14と駆動用ピニオンの凸部15とで支持されているが、平歯車3の回転をゼンマイ巻上軸の歯車6に支障なく伝えている。」(同四欄一七行ないし二三行)

(七)  「考案の効果」

「本考案の装置は、上述のように構成されており、仕切枠を備えていないので、組み立ても容易となり、またそのぶん部品が少なくてすむので製造コストが低減する利点が得られる。」(同四欄三四行ないし三七行)

(八)  「図面」

図面第1図には、右「実施例」の項に記載されている本考案の実施例が示されており、同第4図には、右「従来の技術」の項に記載されている仕切枠13を備えた従来例が示されている。

2  本件公報の考案の詳細な説明の右記載及び図面によれば、本考案は、巻上用ピニオン5の一端と、駆動用ピニオン9の一端を軸受するために、仕切枠13を具備しているゼンマイ動力装置を従来技術として、「この仕切枠を省略出来れば、組み立てにも手数を要せず、またコストの低減をも計ることが出来るので望ましいことは明らかである。しかして、この仕切枠を省く為には、前記巻上用ピニオン5と、駆動用ピニオン9とを、左右の側枠体11、12で軸受しなければならないが、これは、必然的に歯車同士がぶつかることになるので、不可能であった。」との問題意識に基づき、このような問題点を解消しようとするものであることが明らかであるから、本考案において「巻上用ピニオン5の一端を支持」するというのは、単に何らかの程度において巻上用ピニオン5の一端を支持すればよいということではなく、右従来技術において巻上用ピニオン5の一端を軸受していた中間の仕切枠13の軸受の代わりをする程度に確実に支持しようとするということにほかならない。

このことからすれば、本考案が、構成要件Hに示されているように、段部10と平歯車20とで巻上用ピニオン5の一端を支持することとしたのは、これが従来技術の仕切枠13の軸受の代わりをするものであるから、仕切枠13の軸受によって軸受するときと同じではないとしても、できるだけそれに近い程度に、がたつきや傾きなどを防止して円滑な回転を実現するよう確実に支持するためであることが認められる。

したがって、本考案の実用新案登録請求の範囲の「・・・段部10と・・・平歯車20とで前記巻上用ピニオン5の一端を支持し・・・」との記載は、その字義どおり、段部10と平歯車20の両者で前記巻上用ピニオン5の一端を支持することと解さなければならない。すなわち、本考案は、巻上用ピニオン5の一端が常時段部10及び平歯車20に接触していることは必要でないにしても、巻上用ピニオン5が側枠体から内部の方向に一定距離以上移動した場合には、段部10と平歯車20との両者によって支持されることを、必須の構成要件としたものと認められる。

これを、控訴人主張のように、段部10のみで支持する場合、平歯車20のみで支持する場合、両者で支持する場合のいずれの場合も含む意味であると解する根拠は、本件公報の全体を検討しても見当たらず、また、右判断の妨げとなる資料は、本件全証拠によっても見出せない。

3  控訴人は、その主張の根拠として、本考案の技術思想の核心が、この中間の仕切枠を省略するために別の歯車を利用する点にあることを強調する。

しかし、成立に争いのない乙第一号証によれば、本考案の出願前既に、公知の刊行物である実開昭五八-一〇五三九三号公報には、ゼンマイ巻上軸の歯車と大歯車との間に歯車より径の大きな段部を形成し、これに巻上用ピニオンの一端が近接して配置されており、また、駆動用ピニオンと一体に設けた平歯車が右段部よりもやや距離をおいて巻上用ピニオンの一端に臨んで配置されている点において相違するだけで、中間の仕切枠を省略した点も含め、他のすべての点で本考案の構成と一致するゼンマイ動力装置が記載されていることが認められるから、本考案の技術的範囲を決定する要素として、中間の仕切枠を省略したこと自体を重視することが許されないことは、明らかである。

このように公知の実用新案公開公報に既に中間の仕切枠を省略したゼンマイ動力装置が記載されているにもかかわらず、本考案が実用新案登録され、控訴人主張の無効審判請求事件の審決(成立に争いのない甲第六号証)においても、その登録が無効とされなかったのは、右公報には、右ゼンマイ巻上軸の歯車と大歯車との間に歯車より径の大きな段部が形成され、これに巻上用ピニオンの一端が近接して配置されており、また、駆動用ピニオンと一体に設けた平歯車が右段部よりもやや距離をおいて巻上用ピニオンの一端に臨んで配置されているいることが図示されているだけで、その役割についての記載が全くなかったため、この両者が巻上用ピニオンの一端を支持するものとは認められなかったのに対し、本考案が、前述のとおり、仕切枠13を省略しつつ、仕切枠13の軸受の代わりをする程度に確実に支持しようとする技術的思想に基づき、そのための具体的方法として段部10と平歯車20との両者により巻上用ピニオンの一端の支持を行うものとする構成を採用したものであると認められたことによることが明らかである。

右審決が、控訴人主張のように、本考案が段部10のみで支持する場合や平歯車20のみで支持する場合を含むことを説示しているものでないことは、前掲甲第六号証によって、控訴人引用部分を含め、その全体をみれば、明らかである。

三  被控訴人製品について

被控訴人製品が、段部10のみで巻上用ピニオン5の一端を支持する構造のものであり、段部10と平歯車20との両者によりこれを支持する構造を有しないことは、原判決理由四(原判決二七頁末行ないし三五頁九行)記載のとおりであるから、この記載を引用する。

この点に関し、控訴人が当審で主張するところは、原判決挙示の証拠に照らし採用できず、その他右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、被控訴人製品が本考案の前示構成要件Hを充足しないことが明らかであり、本考案の技術的範囲に属さないといわなければならない。

四  以上によれば、控訴人の本訴請求は、いずれも、その余につき触れるまでもなく理由がないことが明らかであるから、棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官山下和明は、転補のため署名捺印することができない。 裁判長裁判官 牧野利秋)

A〈3〉(訂正後)

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例